北極海(イメージ / Pixabay CC0 1.0)
極地の氷の減少によって、北極海を通過する海運の道が新たに開かれると言われている。これを機に、中国共産党政権が北極地域での経済的・軍事的征服を狙っている可能性がある。
中国共産党政権は2018年1月、北極圏経由の輸送を奨励する「氷のシルクロード」と名付けたインフラ開発プロジェクトを発表した。
中国の「一帯一路」計画は、外国を「債務の罠」に陥れる外交戦略であることが次第に明らかになってきた。中国は、経済的に貧しく債務を返済することができない国に対し、代わりに相手国のインフラ所有権との交換を提案してきた。こうして、中国はスリランカの港など戦略的インフラを獲得した。中国の融資を受け入れたケニアでは、地元の人々から不安の声が上がっている。同じく融資を受け入れていたマレーシアは、今後は中国から資金提供を受けないと決定した。
中国は現在、カナダで同様のアプローチを取っている。カナダの公共放送CBCのレポートによると、中国はカナダの大手建設会社を買収する際、国営企業を隠れ蓑として使用していたという。この方法は「フロントドア戦略」と呼ばれている。
カナダ政府は、CNタワーなどカナダのシンボル的建物を建設したことで知られる建設会社「Aecon」の中国による買収を阻止した。しかし、CBCの報道によると、中国の国営・企業は、既にカナダの天然資源、不動産、通信、およびハイテク企業を手中に収めたという。
氷を壊すだけでは終わらない 中国の北極開発
中国は北極海の通行権獲得を熱望していると言われている。これは北極海が北欧諸国とアジア諸国を繋ぐ新たなルートになり得るからだ。しかし、中国の狙いは新たな貿易のチャンス獲得だけでなく、北極地域での軍事的プレゼンス確立であるとの見方もある。
昨年1月、中国は北極圏の利用計画を概説した白書を発表し、中国の取り組みは北極開発に貢献すると主張した。中国は北極から遠く離れているにもかかわらず、自国を「北極に近い力」と呼んで熱烈にアピールしたのだった。
モントクレア州立大学の政治学教授であり、コロンビア大学で上級研究員を務めるエリザベス・ウィシュニック博士は、北極における中国の目的を解説する論文を執筆してきた。2017年に発表した論文では、米国から見た中国の戦略を次のように説明している。
「中国は北極圏での取り組みを長期間続けてきており、関係国と幅広くパートナーシップを築いている。将来、北極に関する議論が大きくなった際に、主導権を握る狙いがある」
ウィシュニック博士は、中国を「精通した不動産業者」と評し、中国は北欧地域の潜在的な経済成長力に注目していると述べている。
「中国はアイスランドやグリーンランドなどの経済的に脆弱な地域にも関与しており、新たな経済的機会を獲得するための足がかりにしようとしています」
中国の最大の目標はグリーンランドへの接近だ。アメリカ政府とグリーンランドは、グリーンランドに所在する「チューレ空軍基地」の今後に関して意見の相違が生じている。中国はこれをきっかけにグリーンランドと友好関係を築こうとしている。
ウィシュニック博士は「中国の企業・政府は、北極でインフラ開発や資源開発を進めています。北極の開発は北アジア、中央アジア、ヨーロッパを繋ぐ中国の『一帯一路』計画のコアになり得るのです」と説明する。
中国は、既に南シナ海で北極海開発計画を実践しているとの指摘もある。南シナ海において、中国はゆっくりと侵入を進め、インフラを徐々に整備することで他国との紛争を避けた。
ウィシュニック博士は「これは、対立を避けながら軍事的・経済的能力を拡大し、利益と主権を守る中国の戦略なのです」と述べた。
一方的な中国の主張は、北極海の通行権をめぐって問題となっている。ウィシュニック博士は次のように指摘する。
「2015年9月、ベーリング海峡の米国EEZ(排他的経済水域)を中国海軍艦艇が通過しました。これを見た米国の一部の専門家は、中国政府が『航海の自由の原則』を受け入れたと認識しました。しかし以前から中国はこの原則を拒絶してきたのです」
中国の関与は「氷山の一角」でしかない
中国は、北極を管理する唯一の統治機構「北極評議会」のオブザーバー国家だ。ウィシュニック博士は「中国は、『北極評議会』が北極圏以外の国々の利益、そして国際社会の共通の利益を考慮に入れるよう主張し続けるでしょう」と予想する。
軍事的な影響も懸念材料の一つだ。ウィシュニック博士は北京にある海軍研究所によるコメントを引用しつつ「北極圏へのアクセスは、中国が西洋の圧力から抜け出し、世界の舞台に現れることを可能にするでしょう」と指摘した。なお、同研究所は人民解放軍海軍に属しているという。
最近の研究では、中国が北極圏での作戦に適した潜水艦を計画している点にも触れられている。中国の軍事研究所は、氷の層を突破して浮上できる潜水艦の開発に取り組んでいるという。
中国はロシアとのエネルギーパートナーシップ発展にも力を注いできた。現時点でロシアが中国と軍事同盟を締結する可能性は低いが、両国はバルト海・黒海で共同演習を行ったほか、新たな貿易ルート完成に向け取り組みを続けている。
(翻訳・今野秀樹)