中国の長い歴史の中で、数多くの名曲が作られました。そのなかで最も有名なこれらの曲は「中国古典音楽の十大名曲」と呼ばれています。
1 .高山流水
中国の春秋時代、伯牙(はく が)という古琴の名手がいました。そして親友の鍾子期(しょう しき)は、伯牙が演奏した「高山流水」という古琴の曲をよく理解していました。伯牙の奏でる古琴の音から、子期は彼の内面にある精神世界を共有することができました。そうして彼らは親友となり、「知音」という言葉が誕生しました。
後に「高山流水」は古琴の代表曲となりました。また、この言葉はことわざとしても用いられ、「一部の者にしか理解できない高度で気品のある芸術」をも意味します。
1977年、著名な古琴奏者管平湖氏によって演奏された「流水(Flowing Streams)」は純金製のレコードに収録され、NASAのスペースシャトル「ボヤージャー1号」と「ボヤージャー2号」によって宇宙へ送られました。
有名な古琴演奏者・管平湖(1897―1967)による「流水(Flowing Streams)」:
2 .廣陵散
「廣陵散」は古琴曲であり、中国の十大名曲の一つです。この曲は中国の後漢時代(25年―220年)の廣陵(現在の江蘇省揚州市)というところで流行していました。
「廣陵散」は古代中国の戦国時代(紀元前5世紀-紀元前221年)の聶政(じょう せい)が厳仲子の恩を返すために、韓の宰相・侠累を殺し、自分も自殺した物語を元にしています。
三国時代、竹林の七賢の一人である嵆康(けい こう、224年―262年あるいは263年)は魏の武将・鍾会(しょう かい、225年―264年)の恨みを買い、処刑されることとなりました。嵆康は処刑される前に「廣陵散」を演奏し、演奏終わってから「今後この曲の演奏をできる人はもういないだろう」と言いました。
現存する「廣陵散」は有名な古琴演奏者・管平湖氏が明の時代に出版された「神奇秘譜」という本から整理したものです。管平湖氏が整理した曲は、嵆康が演奏した曲と同一であるかどうかは明らかになっていません。
有名な古琴演奏者・管平湖(1897―1967)による「廣陵散」:
3 .平沙落雁
「平沙落雁」は中国の十大名曲の一つです。世の中で流行した時期が最も遅かったのですが、最近三百年間でもっとも人気のある古琴曲です。
「平沙落雁」のリズムは和やかでゆったりとしています。この曲は風穏やかな秋晴れの空を雁が遠くまで飛ぶ様子を描写しつつ、遠方まで羽ばたく雁の大志に志士の心情をなぞらえています。
有名な古琴演奏者・張子謙(1899―1991)による「平沙落雁」:
4 .梅花三弄
梅花三弄は唐王朝初期の古琴演奏家・顔師古(がんしこ)が笛の曲から改編した古琴の曲です。この曲は動と静、柔と剛を組み合わせることで千姿万態な梅の花を描いています。 曲の前半は穏やかな曲調を用いて悠遠で俗離れした雰囲気を演出し、曲の後半は起伏のあるものとなっています。
演者の呉景略(1907―1987)は有名な古琴の演奏家です。呉氏は繊細優雅な演奏風格を用いて大雪の中にたたずむ梅花の姿を表現するとともに、冷たい風にも耐える梅の花の忍耐力を表現しました。
5 .十面埋伏
「十面埋伏」は琵琶曲であり、中国の十大名曲の一つです。この曲は紀元前202年に起こった楚(項羽)と漢(劉邦)の戦いをテーマとしています。「十面埋伏」と「春江花月夜」は琵琶曲の中でも「一文一武」の代表曲とも呼ばれています。
この曲は13の段落に分けられ、段落1から段落5はパート1、段落6から段落8はパート2、段落9と段落10はパート3となっています。原曲は段落13までありますが、現代は一般的に第10段落までしか演奏されません。
以下は段落ごとの内容です。
1.列営:前奏曲として、戦う前に兵士たちがドラムを叩く場面が表されています。
2.吹打:兵士たちを鼓舞するために、各種類の楽器を演奏されています。
3.点将:総大将の前で、各部隊の将軍らは命令を受けています。
4.排陣:兵士たちが陣を作ります。
5.走隊:軍隊の移動です。
6.埋伏:戦いの前夜、漢軍が陣地に進入します。
7.鶏鳴山小戦:楚と漢の軍隊の戦闘が始まりました。
8.九裏山大戦:楚と漢の軍隊が激闘している場面です。
9.項王敗陣:項羽(楚)軍が敗走しました。
10.烏江自刎:項羽が逃走し、漢軍が後ろから追い駆けています。最後に、項羽が自殺します。
有名な琵琶演奏者・呂培原(1933―)による「十面埋伏」:
6.「春江花月夜」(または「夕陽簫鼓」)
「春江花月夜」(または「夕陽簫鼓」)は有名な古筝曲であり、揚子江の美しい景色を描いています。この曲のリズムは非常にエレガントで、リズムは滑らかで変化に満ちています。夕暮れの川岸に鳴り響く鐘や太鼓の音の描写から始まり、月に照らされた川の景色へと徐々に移っていきます。揚子江の水は空の色を映し出し、地平線の彼方へと流れていきます。漁師たちの歌声が遠いところより聞こえたかと思えば、夕日が沈みやがて静けさに包まれます。
7 .漁樵問答
「漁樵問答」は古琴の曲であり、中国の十大名曲の一つです。この曲は呼応するリズムを用いることで、山紫水明の大自然の中にいる漁師と木こりの会話の場面を描き出しました。その会話の神髄は「三国演義」に登場する次の詩と相通じるところがあると言われています。
「白髪の漁師と樵夫は川中島に座り、秋月と春風を見慣れている。濁り酒を共に飲みながら出会いを祝い、古今東西の歴史は談笑の中にある。」
(中国語の原文:「白髮漁樵江渚上,慣看秋月春風。一壺濁酒喜相逢,古今多少事,都付笑談中。」)
有名な琵琶や古琴演奏者・呂培原(1933年― )による「漁樵問答」:
8 .胡笳十八拍
「胡笳十八拍」は中国の十大名曲の一つです。中国後漢末期から三国時代の魏の詩人蔡 琰(さい えん、蔡文姬、177年―249年)は胡笳という北方遊牧民の楽器のリズムを古琴の曲に加え、作成しました。
興平年間(194年―195年)、董卓の残党によって乱が起こると、蔡琰は匈奴の兵士に拉致され、南匈奴の左賢王に側室として留め置かれました。匈奴に12年住む間に子供が2人生まれました。建安12年(207年)、蔡琰は帰国しましたが、子供たちは匈奴に残されました。蔡琰が自らの不運な半生を表現したものが、「胡笳十八拍」とされています。
有名な古琴演奏者・呉景略(1907―1987)が演奏する「胡笳十八拍」:
9 .漢宮秋月
「漢宮秋月」は中国の十大名曲の一つです。最初は琵琶のために作られた曲でしたが、現在では琵琶以外の楽器(古筝、二胡など)で演奏されたものが一般的です。この曲は繊細な旋律で古代の宮廷に仕える女官の哀愁を現しています。
古筝による「漢宮秋月」:
10. 陽春白雪
「陽春白雪」は中国の十大名曲の一つです。伝説によると、作曲者は中国春秋時代の晋の平公に仕えた楽人・師曠です。
この曲は、残雪が映える早春に、植物が芽吹く生き生きとした景色を表現しています。曲調は滑らかで明るい印象を与えます。
有名な琵琶演奏者・呂培原(1933― )による「陽春白雪」:
(編集・黎宜明)