鄭曉松(イメージ:パブリック・ドメイン)

 マカオを管轄する中国政府の責任者・鄭曉松氏は、10月21日、自宅マンションから転落し死亡したと発表された。

 中国政府内にあるマカオ連絡事務所は「鄭氏はうつ病を患っていた」旨の声明を発表したが、死亡の際の状況について詳しくは触れなかった。その後中国政府の代表はマカオを訪問し、同氏に弔意を表した。

 鄭曉松氏(59)は、2017年9月、政府内のマカオを管轄する部門に任命された、中国共産党中央委員会のメンバーだ。または鄭氏は以前、福建省の副知事を務めた経験もある。

 マカオは香港と同様「一国二制度」政策のもとで運営され、選挙で選出された首席幹部が統治を行うが、北京からの承認なしには正式な就任が認められない仕組みとなっている。

 マカオ行政長官・崔世安は声明で、鄭氏の死亡について「ショックを受けた」と哀悼の意を表した。香港行政長官・林鄭月娥も、鄭氏の死に対する深い悲しみを表明する声明を発表した。

香港とマカオ 2つの連絡事務所の歴史

 マカオ連絡事務所には、香港連絡事務所と同様、中国共産党政府からの課題を現地で忠実に遂行してきた長い歴史を持つ。

 1949年、中国共産党中央委員会は「香港委員会」を設立した。これは後に香港・マカオ委員会(HKMWC)に改称されることになるが、いずれにせよ、この組織の目的は両地域における「中国政府の事業」の監督だ。

 香港の政治学者・馬嶽氏の著書「香港の政治的発展:国家、政治社会、市民社会」によると、HKMWCには、香港・マカオにおける「左派組織」のネットワークを指揮するという目的もあるという。具体的には、銀行や旅行代理店、出版社や新聞などの文化機関や、若者・女性団体などの大規模な組織などがその対象となっている。

 HKMWCは中国政府直属の組織である「共産党中央香港・マカオ工作協調小組」(以下「小組」)の傘下に属していることからも明らかなように、両地域に対する事実上の最高機関だ。作業の進捗状況は、共産党の上級指導部25人がメンバーを務める「政治局」に報告される。

 2000年1月、香港とマカオの支部はそれぞれ「連絡事務所」に改称されたが、両者とも引き続きHKMWCの傘下に置かれている。また、香港の学者方志恒の論文(2014年)によると、いまだに両連絡事務所は「左派組織」のネットワークを監督しているという。

 その「連絡事務所」を監督する「小組」であるが、この組織は江沢民・元国家主席との強い関わりを持っている。そして彼自身とその取り巻きたちは、習近平のリーダーシップに反対する派閥を構成している。

 国家副主席を務めた曽慶紅は、2003年、「小組」の議長に任命された。曽は、江沢民の重要な腹心として広く知られていた人物だ。

 2012年までは、「全国人民代表大会常務委員会」の元委員長・張徳江と、江沢民の取り巻きらが、「小組」の主要人物になると考えられていた。しかし2012年末に習近平が権力を握ると、江沢民派の追放が開始され、香港とマカオに対する江沢民派の影響力は弱まり始めた。

 そして現在、「小組」のトップの座を射止めたのは、中国の副総理の一人である韓正である。彼は江沢民派の拠点である上海で政治的なキャリアを築いた一方、上海市長在任中には習近平と良好な関係を構築したとも言われている。

(翻訳・今野秀樹)