「曹大家授書図」(清・金廷標 / 國立故宮博物院・台北 / パブリックドメイン)

 中国後漢の時、班昭(はん しょう、45年 – 117年)という一人の才女がいました。彼女は当時の文豪・班彪(はん ひょう、3年 – 54年)の娘でした。班昭は才徳兼備で、漢の和帝によって数回に渡り宮中に招かれました。皇后や妃たちは彼女を師として、経史典籍を学びました。そのため「大家(昔の用法で、中年女性に対する敬称です)」と呼ばれ、またはその夫の姓である曹を冠して「曹大家(そうたいこ)」とも呼ばれました。

「漢書」と「女誡」を著す

 班昭の兄・班固(はんこ、32年-92年)は「漢書」を書いていましたが、完成しないまま亡くなりました。班昭は博学で才能もあったため、漢の和帝は班昭が続きを完成するよう要求しました。班昭は見事「漢書」を完成させました。このほか彼女は「女誡」という本を著し、七つの方面から女性の立身処世や品徳、礼儀を論じ、その後の数千年に渡り中国で女性教育に大きな影響を与えました。

北宋版「漢書」(パブリックドメイン)

絵の鑑賞

 「曹大家授書図」は班昭が宮苑小閣で授業をする様子を描いています。画家金廷標氏は清代宮廷の絵師で、院体画の手法で写実的な絵画を残しました。

 この作品に描かれた班昭は華美な衣装を身にまとい、腕を持ち上げ、真剣に書道の教授をしています。授業を受けている男の子は両手で紙を押さえ、姿勢よく授業を受けています。

鈎勒及び色付けの技法
 この絵の中で、人物の描きは繊細であり、鈎勒の線は堅実で力強いです。整っていて弾力のある筆意は画家の謹厳で控えめであることが窺えます。色付けには班昭と男の子の衣裳は濃い色調の石青色と石緑色で敷き染めています。他の人は淡彩で色を付けています。それで主次の対比を生みます。

 このほか、班昭と男の子の青と緑の服が鮮やかな赤色の紙および女の子の赤い服と対比に、あるいは黒漆の長机と白色の花スカート、ピンク色の顔など、全部強烈な対比をします。様々な対比手法の隈取で絵の主題が際立ちます。宮廷生活の小さな容貌が披露されました。

「曹大家授書図」一部(清・金廷標 パブリックドメイン)

人物の性格を描く
 画家はこれをもって人物の性格を描きました。画面の人物は三段階にあり、それぞれ中年、青年、幼年です。各人物の体型、表情、衣装を通してこの三つの年齢層が一目瞭然になります。例えば、曹大家は体型が少しふくよかで、表情は真剣です。如才ない装いと飾りを通して、彼女の人生閲歴が他人より豊富であることが窺えます。二人の侍女は体型が細長く、飄逸としています。身分地位のせいで、表情が平和的で、少しひんやりしているように見えます。

幼童の天性
 この清幽な宮苑小閣では男の子が机で授業を受けているほか、ほかの五人の幼童は平日外出する機会が珍しいみたいで、外に出るチャンスがあると極めつくしてわんぱくをします。侍女の手を振り切る子もいれば、夢中に登る子もいます。懐に抱っこされている幼女も何かやりたいとじれったいようで、体を乗り出し手を伸ばしています。画家はこれらの動作が千差万別の子供たちの様子を生き生きと描きました。この絵に「躍動感」があるのも腕白な子供のおかげです。

結語
 画家は楼閣内外の植物と五人の子供が遊ぶ様子を作品に描き込むことで、作品全体ににぎやかで優しい雰囲気を与えています。これだけでは落ち着きが足りないので、画家は「界画」の手法を用いて四角い窓と丸い扉という二つの大きな構造物を描き、バランスが取れるようにしました。私たちもこの絵の景色から、豪華絢爛な宮殿建築の一角を知ると共に、古代の生活を少しばかり追体験できるのです。

注:
界画とは中国絵画の技法・流派の一つで、建築等を描く際に定規を用いるのが特徴です。中国美術史上最も有名な界画として「清明上河図」があります。

(文・鄭行之 / 翻訳・時葦瑩)