偉業を成し遂げた歴史上の人物には、共通する特徴があります。それは、「愚、静、時、信」の四つを守ることです。
「愚」を守る
『史記』によると、孔子は若い頃、老子に人生のアドバイスを求めたことがあります。老子は孔子に「良賈は深く蔵して虚しきがごとく、君子は盛徳あるも容貌愚かなるがごとし」と言いました。
その意味とは、聡明な商人は、自分の富を深く隠し、外見が空っぽであるかのように見せるのが得意です。高尚な君子は、高い徳があっても外見にあらわさず、容貌が愚か者のように見えます。傲慢と貪欲な心を捨て去ってからこそ、聖人になれるのです。
「大智は愚の如し」という諺がまさにこのことを言っています。「難得糊塗（バカは得難し、愚者になるのが難しい）」というのは、昔から世渡りに長けると言われる処世術です。多くの人々が追求しているその「バカ」の知恵と境地は、老子が言う「愚の如き大智」のことです。
自分の才能をひけらかし、他人を迫ることがいけません。あまりにも自己の才能を自慢すると、嫉妬されやすくなるどころか、敵を作りやすくなります。
「静」を守る
大きな出来事があっても、常に冷静であるべきです。「静」は古代中国人が推賞する大いなる知恵です。
『老子道徳経』に、「靜は躁（そう）の君たり」という伝えがあります。その意味は、冷静さを表す「静」は、人の中にある短気を鎮めることができます。『大学』にも、「靜（しづか）にして后（あと）能（よ）く安（やす）し、安くして后能く慮（おもんばか）る、慮りて后能く得」という伝えがあります。即ち、冷静になってから気持ちが落ち着くことができ、そのうえでよく思考することができるので、得をすることができます。冷静さは落ち着く、考える、得をするための基本だとも言えます。
心を静めてからこそ、本当の楽しみを見つけることができます。大空に目を向けてからこそ、大きな視野を得ることができます。
心が静かでない人は、本質的な思考をするのが難しく、傲慢でせっかちになりやすいでしょう。一方、心が静かな人は、物事をよく観察して判断し、深く掘り下げて思考するため、問題の解決策を見出したり、人生の悟りを察知したりする傾向があります。
物静かな人こそ、暮らしの中の幸せと美しさを発見できます。代わりに、せっかちな人や焦っている人は、幸せや美しさを見逃してしまいます。
人生において、様々な艱難辛苦に遭い、もしくは無駄に見える時間を過ごしてしまうことがあるでしょう。しかし、冷静に、淡白な心を持っていれば、雑踏に紛れず、自分だけの静けさを見つけて、おおらかな人生を送ることができるのです。
「時」を守る
君子は、ただ時間を守るだけではなく、時（タイミング）を待って、機会（チャンス）を掴み、時機の到来を待つことができます。
優れた才能と本領を持つ君子は、見せびらかすことはなく、必要なタイミングだけで発揮します。つまり、見られていない時には自分を磨き、来るチャンスを待ち、才能と本領を十分に発揮する事が大事です。
時機は客観的なものであり、人為的なものではありません。私たちは時機を作ることはできませんが、時機を待ち、掴むことができます。これが「時」を守るということです。これができる人は、時機が来る前に十分な準備をしておき、チャンスを見逃さすことはありません。
「信」を守る
孔子の『論語』に、「人にして信無くんば、其の可なるを知らざるなり」という伝えがあります。その意味とは、人として信用がなければ、何ができるかわからないということです。
春秋時代、呉国の季札が晋国に初めて訪問した際、北方の徐国を通過しました。
徐国の君主は季札の帯びた剣をとても気に入っていましたが、言い出しませんでした。 一方、季札は徐国の君主の気持ちを察していましたが、他国を訪問しに行かなければならないので、徐国の君主に自分の剣を献上しませんでした。
その後、季札は任務を果たし、徐国に再び通過した時、徐国の君主がすでに亡くなっていました。季札は自分の剣を解いて、徐国の君主の墓前の木に吊るしました。「徐国の君主もう亡くなられました。一体誰に宝剣を差し上げるのですか？」と、季札の従者は尋ねました。季札は「そうではありません。私は心の中でこの剣を徐国の君主にさしあげようと決めたのです。その君主なくなったからとはいえ、心に決めた約束を破るわけにはいきません！」と答えました
季札は心の中だけで他人と約束したのに、その約束を守り抜きました。それに比べて、今日の多くの人が口にした言葉や、書き出した約束をどこまで守れているのでしょうか。
「信」を守り、約束を破らないことは、どんな大金でも買えない人格的魅力です。他人からの信用は、自分の他人の中での存在価値ですので、決して信用を失ってはいけません。信用を失うことはこの上ない破綻です。「信」を守るが、好感や支持を得る必要不可欠な条件です。
（翻訳・徳永木里子）
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