中国問題専門家・程暁農博士(イメージ:YouTube動画のスクリーンショット)

 米大統領選挙において、トランプ氏とバイデン氏の最大な違いは中国共産党に対する外交政策である。では、現在米中はどのような関係にあるのか。

 近日、中国問題専門家である程暁農(テイ・ショウノウ)博士は、「希望の声」チャンネルの番組「江峰の時間」の取材を受け、現在の米中関係を「新冷戦関係」だと称した。

 程暁農博士は、かつて中国の総理および中国共産党総書記であった趙紫陽(ちょう しよう)のシンクタンク中の重要人物である。2020年10月11日、程博士は、「希望の声」チャンネルの番組「江峰の時間」の司会者・江峰氏の取材を受けた。

 取材の中で、現在の米中関係についての見解を江峰に聞かれた程博士は、2020年7月より、米中間は冷戦状態に入り、双方は厳重に警備しており、各分野で拮抗状態になっていると明言した。

中共の3回の脅迫行為

 程博士の解説によると、この冷戦は中国共産党(以下略称:中共)が始めたものである。なぜなら、今年すでに中共は核兵器による軍事活動を3回も行って、脅迫している。

 1回目の脅迫行為は、今年1月末、中国の海軍艦隊と戦略ミサイル原子力潜水艦がミッドウェー島の米国海軍基地付近で軍事演習を行ったことである。中共の海軍はこのエリアで演習を行い、米軍の太平洋にある最後の防御ライン、即ち第三アイランドチェーンの防御能力を探ろうとした。中共はメディアで、今回の演習の内容は真珠湾への攻撃をも含めていると公表した。

 2回目の脅迫行為は、3月にすでに中共が公表した米国に対して戦略的核兵器攻撃をする際の、核兵器搭載潜水艦の南シナ海での安全な発射拠点の確保である。その狙いは南シナ海で人工島を作り、南シナ海の国際水域を戦略的核兵器潜水艦の砦だと自称し、米国を中共の核兵器の脅威の中に晒させることである。

埋め立てが進む南シナ海のファイアリー・クロス礁の南西端(2015年5月)(パブリック・ドメイン)
大陸間弾道ミサイルを発射する潜水艦(パブリック・ドメイン)

 3回目の脅迫行為は、6月末に中共が公表した「北斗衛星測位システム」の完成である。中共自らの公表によると、同システムは中共の核ミサイル攻撃能力を遥かに向上させた。同システムの応用により、中共の大陸間弾道ミサイルは米国国内のあらゆる目標を正確に攻撃することが可能になった。

 この3つの脅迫行為を合わせてみると、まるで米ソ冷戦時の「キューバ・ミサイル危機」の21世紀バージョンに見える。米ソ冷戦が終わって30年経った今、米国は再び共産主義大国の核兵器の脅威に臨むことになった。自衛のためとはいえ中共と冷戦状態に入り、米国は全方位的な対抗を迫られている。

米中は冷戦状態に入った

 程博士によると、米中間の対抗は軍事、情報、経済など、様々な領域にわたっている。

 元アメリカ国防総省長官代行、「中共という目下の危機への対応委員会」の創始者であるフランク・ガフニ氏(Frank Gaffney)によると、現段階の米中冷戦の激しさ、並びに米国と世界の安全に対する脅威の強さは、米ソ冷戦をはるかに超えている。

 程博士も、現段階の米中冷戦は米ソ冷戦の延長戦ではないと述べた。その原因は経済のグローバル化にある。米ソ冷戦時にない経済のグローバル化は米中冷戦の背景を形成し、中共と対抗する米国のプレッシャーは以前にも増して格段に強くなっているのだ。

 程博士によると、2020年7月にターニングポイントが訪れた。米国政府は公然と対応を表明した。米国の国務長官、国防長官、司法長官、連邦捜査局長官及び国家安全保障問題担当大統領補佐官は相次いでスピーチを行い、米国の対中新政策を詳しく説明した。それらの要点をまとめると、40年間の米中平和が終わり、米国の第一脅威が中共になり、米国は全面的な対策を講じ、米国の国家安全を守るとのことである。

米中新冷戦の2つの大事件

 程博士は、米中が冷戦状態に入ってから起こった2つの大事件を紹介した。

 1つ目は9月下旬に起こった。アメリカインド太平洋軍はグアム海域に軍事演習を行った。ロナルド・レーガン艦が率いる空母打撃群は、横須賀基地から出発し、グアム海域に演習を行い、その後、バシー海峡(台湾とフィリピンの間にある海峡)に向かった。打撃群は、幅200キロメートルのバシー海峡を低速で南北に何回も往復した。中共の戦略ミサイル原子力潜水艦がこの海域で活動していることを米国艦隊が発見したからである。

 バシー海峡は、中共の核兵器搭載の戦略ミサイル原子力潜水艦が海南島の三亜軍港から太平洋に入り、米国に脅威を与えるメインルートであるため、その立地はとても重要である。そのため、中共の潜水艦を発見した米軍は、直ちに対潜戦演習を行った。一方で中共も米軍艦隊のロサンゼルス級原子力潜水艦に対抗して、対潜戦飛行機を派遣した。米中双方の潜水艦は米ソ冷戦時の米ソ間にしかなかった水面下で、米中冷戦がはじまって以来初の対峙となった。

1962年10月、キューバ近海を航行するソ連海軍の潜水艦を監視するアメリカ軍の航空機と艦艇(パブリック・ドメイン)

 2つ目は10月2日、トランプ米大統領の中共ウイルス(新型コロナウイルス、SARS-CoV-2)感染判明の日に起こった。感染公表の30分前、中共に備える米国の2台の「Doomsday Plane(地球最後の日の飛行機)」が離陸した。

 

Doomsday Plane(地球最後の日の飛行機)であるE-6B航空機(Balon Greyjoy, CC0, via Wikimedia Commons)

 「Doomsday Plane(地球最後の日の飛行機)」とは、米国の国防安全対策の一つで、軍隊の総司令官である大統領が病気に罹った時に、敵対国家の侵入を防ぐため離陸させる飛行機で、米国戦略軍司令部の空中指揮所でもある。大統領の病気中、米国の敵対国家が核兵器を使い米国の国家安全を脅かす場合、防空システムを起動し核兵器を撃ち落とす準備をするほか、戦略ミサイル原子力潜水艦に搭載している数百機の大陸間弾道ミサイルを使い、即座にセカンドストライク、即ち反撃の準備をする必要がある。

 米国は、トランプ大統領の入院30分前にこの2台のドゥームズデイプレーンを離陸させ、民用航空システムへのシグナル伝達を有効にし、民航システムにこの2台のドゥームズデイプレーンの最新状況を常時に探知してもらうことができるように備えた。平常時には有効にしないこのシグナル伝達から出す米国の中共に対する明確なメッセージとは、米国は核兵器の反撃をする準備を整えており、大統領の病気中に米国を襲撃しようとしたら、米国はセカンドストライクを発動し中共をせん滅することである。

 中共に対する米国のこれら2つの軍事行動は、米中間軍事対抗が明らかに表面化していることを証明している。米ソ冷戦はソ連崩壊をもって終わった。ならば米中冷戦が中共の崩壊をもたすかどうか、今後の動向が注目される。

 ※キューバ・ミサイル危機は、1962年10月から11月にかけて、ソビエト連邦がキューバに核ミサイル基地を建設していることが発覚、米国海軍がカリブ海でキューバの海上封鎖を実施し、米ソ間の緊張が高まり、核戦争寸前まで達した一連の出来事のこと。

(看中国記者・黎宜明/翻訳・常夏)