新疆のウイグル人(ウィキペディア、パブリックドメイン)
中国政府は、個人の自由やプライバシーを無視する世界で最も圧制的な政権の一つだ。それを物語る事例として、中国政府はウイグル人の行動を監視するために、彼らが持つ携帯に監視アプリをインストールするよう強制している。
ウイグル人監視のための専用アプリが存在する
「ウイグル人監視アプリ」は、中国のハイテク企業が警察と緊密に連携して開発したものだと言われている。このアプリはユーザーの携帯電話をスキャンし、電子書籍、オーディオ、ビデオ、またそれ以外にテロや暴力と関係があると診断されたあらゆるファイルを検索する。ファイルが検出されると、アプリケーションはファイルの削除をユーザーに求める。ユーザーがその要求を無視しファイルを削除しない場合、ユーザーは裁判所に連行されるという仕組みになっている。
中国政府は、イスラム教徒の少数民族であるウイグル人が多く住む新疆で同アプリの運用を始めた。現地警察は、ウイグル人が実際にこのアプリをインストールするかどうかを厳格に確認しており、現在も路上などで、ウイグル人の住民が警察によって携帯電話をチェックされる姿が見掛けられる。
一方、同アプリには、第三者がデータにアクセスするのを防ぐための暗号化がなされていない。つまり中国政府は、ウイグル人のプライバシーに何ら関心を寄せていないのだ。
オープンテクノロジー・ファンドのリサーチディレクターを務めるアダム・リン氏は次のように説明する。
「我々の調査によれば、このアプリにはユーザーの個人情報を保護するための保護手段が構築されていません」
ウイグル人のプライバシーは完全に無視
ウイグル人は中国で最も迫害されたグループのひとつだ。1100万人もの人口を誇るが、そのほとんどは中国政府の監視下である新疆で生活している。また新疆では、中国政府がウイグル人の家を襲撃し、彼らが信仰するイスラム教の慣行を制限するのみならず、文化への関与も抑制している。このアプリは、ウイグル人を弾圧するために使用されている多くのテクノロジーの1つに過ぎないのだ。
「この新しい技術によって、ウイグル人はかつて持っていたプライバシーを失ってしまいました。何らかの意見や不満を表明することには極度の危険が伴います。ここに住む誰もが常に監視されていることを意識させられています。ウイグル人は、かつてジョージ・オーウェルが描いた生活を実際に強いられているのです」
ラジオ・フリーアジア(RFA)は、世界ウイグル議会のメンバーであるオメール・カナット氏のコメントをこのように紹介した。
中国政府はウイグル人を監視するために顔認識を使用してきたが、現在では、IJOP(Integrated Joint Operations Platform 統合型連結プラットフォーム)と呼ばれる新しい監視プラットフォームが導入された。
このプラットフォームでは犯罪予測にビッグデータが使用されていると言われている。実際にどのようなソフトウェア処理が行われているかは公表されていないが、ある専門家は、銀行・保険・車両チェックポイント・警察報告など複数の記録を組み合わせ、特定のウイグル人がテロ行為を行う可能性を判断していると指摘する。
多くのセキュリティ専門家は、このプラットフォームはやがて国全体に実装されるだろうと予想する。いずれ中国はAIが24時間の監視を行う国家になるのか。ウイグル人に対する監視が激化するのと同時に、オーウェルが予測した「悪夢」は、中国で現実化の道を歩みつつあるのだ。
(翻訳・今野秀樹)